周産期委員会企画
2)妊娠貧血に関する管理標準化を目指した調査研究
永松 健
国際医療福祉大学成田病院
循環血液量の増加および胎児胎盤の鉄需要が高まることから非妊娠時に比べて妊娠期全体では約1g の鉄の需要が増加する.しかし,食習慣の個人差もあり必要量の鉄の摂取が追い付かず妊産婦の鉄欠乏性貧血の割合は世界的に高いことが示されてきた.貧血は妊娠期には早産,胎児発育不良に関連が示されており,妊産婦の貧血管理の重要性は高いとされている.しかし,妊娠中の循環血液量の増加において血漿増加が血球増加を上回るため,相対的にヘモグロビン値が低下する変化が生理的に生じる.そのため,妊娠時期に応じてヘモグロビン値の正常範囲は変化すると考えられる.さらに,妊娠高血圧腎症に代表される胎盤機能障害を背景とした周産期疾患においては,生理的な血液希釈が適切に働かないことで正常妊娠よりもヘモグロビン値が高くなるということも指摘されてきた.つまり,妊娠期のヘモグロビン値の解釈や目標については議論の余地があり,妊婦健診において貧血のスクリーニングが行われているが,鉄補充を実施する介入の目安については標準化が進んでいない.産婦人科診療ガイドライン産科編では2023年版に初めて妊娠中の貧血に関するCQが作成されたが,国内での妊産婦貧血に関わるエビデンスはいまだ乏しく,妊娠期の貧血スクリーニング法や鉄補充の方法の標準化には課題が多く残されている.一方で,産褥期の貧血に関しては,分娩期の出血が多く貧血が遷延した場合には,産後うつの頻度が増加し,母乳栄養の確立が阻害されることが知られている.それに対して鉄補充による早期回復を図ることでそれらの負の影響を減らすことができるという報告もあり,鉄欠乏への介入の有効性は妊娠期よりも産褥期についてエビデンスが集積した状況にある.近年,高用量の静注用鉄剤が臨床導入されて治療介入の選択肢は広がったが,内服鉄剤と静注鉄剤の使い分けをどのように行うべきかという新たな課題も生じている.本講演ではそうした視点から国内の妊産婦における貧血の診断,治療介入の問題点を整理し,周産期委員会における妊産婦貧血に関する調査研究の取り組みを紹介する.
2024年 第76回